とうきび畑

小説など。気が向いたときに

【読ログ】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

ちこりです。初めての投稿となります。

 

今回の春休みは読書とアニメの消化を頑張る!と宣言します。

 

さて、今回は

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 / 辻村深月さん(講談社文庫)

という本をご紹介していきます。

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 この物語は、突然幼馴染のチエミが母親を殺して失踪しているという事件を聞いた主人公・神宮寺みずほが、上京する前まで住んでいた山梨を中心にチエミとかかわりのある人への聞き込みをしていき、事件の真相を明らかにしていくという話になっています。

 

 小中学校時代を共に過ごし、大人になってからも地元・山梨で合コンをともにしてきたみずほは、チエミの母娘関係の結び付きが強かったことを知っています。娘は母親を信頼しなんでも相談する、母親は娘を何よりも大事に想う。合コンが開かれたら何の疑問も抱かずに出席した異性の人数や特徴を母親に伝えるほどの関係。

 

 それでも母親から離れられず、いや、離れずにずっと良好な関係を築き山梨で過ごしてきたチエミが母親を殺す動機なんて幼馴染であるみずほからは考えられませんでした。ましてや、チエミは気性が荒い人間ではなく、弱気でよく物怖じする性格なのでした。みずほはもう一度チエミに会いたい、会って話を聞きたい、と思いチエミと親交のあった高校の部活の友人や合コン仲間、婚約目前だった元彼氏、職場の女子仲間へと話を聞いて回ります。

 

 合コンではチエミのような自己主張が苦手で目立たないタイプは男子から見向きもされず、やっと手繰り寄せたチャンスも踏みにじられてしまうというモテ格差が存在すること。ここの女子は誰かと結婚することでしか先に進めず「幸せ」が実現されないということ。地方での女子の冷酷な実態が鮮烈に描かれていました。

 

 地方にとどまる気がなく、上京していったみずほはどこか合コンを頻繁に開催し、出会いに飢える地方の女子にどこか冷めた目を送っているようで、物語でも地方での現実には冷たい風が吹きまわしているように思えました。

 

 途中までの物語の進行では一切チエミが出てくることはなく、周りから見たチエミの姿がつらつらと描かれています。

いない場で周りから語られるチエミの姿に自分は同情をしました。しかし、その同情は自己主張ができなく派手な見た目をしていない、合コンでは「数合わせ」として呼ばれるチエミを見下しての同情であったのだと、読み進めてみずほの語りに突き刺されてしまいました。登場人物も、そして読んでいる自分たちも、チエミより優位な立場だからと勝手にチエミに可哀想を押し付けていましたが、そのような境遇でチエミは何を考えていたのでしょう。

 

 終始冷たい印象で描かれていた地方の女子の実態には何度も鈍く胸を刺されるような痛みがありました。

まだまだ地方には夢も希望もない現実があって、でもそれには同時にどうにもできなかった事情も存在しているのだと気づかされました。社会問題でもある「赤ちゃんポスト」にも切り込んでいて、その意義やマスコミの取り上げに考えさせられるものがありました。

 

 辻村さん作品の特徴でもありますが、読み進めるとするすると紐が解けるようにチエミが母親を殺して失踪した動機が分かってきます。また、タイトルである『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』が何を表すかも最終的に回収されています。

 

 最期に著者インタビュー記事をご紹介します。

楽天ブックス|著者インタビュー 辻村深月さん『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

記事中で著者の辻村さんは「地方負け犬」という言葉に焦点を当てています。

 

 鈍く突き刺さる痛みと全ての伏線が回収される気持ちよさを味わうことができるので、ぜひおすすめしたいと思います。

 

 今は芥川賞を受賞した話題作『推し、燃ゆ』を読んでいます。純文学作品に似つかないタイトルでの芥川賞、どんな作品なのか自分もすごく注目しています。

 

ちこり