とうきび畑

小説など。気が向いたときに

【読ログ】推し、燃ゆ

ちこりです。

 

今回は2021年上半期の芥川賞受賞作品を読んでみました。

 芥川賞直木賞は毎年1月と7月にそれぞれ一冊ずつ発表されるのですが、今回の作品は

・タイトルのキャッチー性

・作者の21歳という若さ、第二作での芥川賞受賞

で一気に話題になった作品です。この作者の処女作『かか』は三島由紀夫賞を史上最年少で受賞しており、これから世に出される作品も楽しみに思います。

 

さて、その作品は、

推し、燃ゆ  /  宇佐見りんさん(河出書房新社)

です。

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 この話はアイドルの少年に陶酔している高校二年生の主人公の推し活と主人公のとりまく生活を描いています。

 推しているアイドルがファンを殴ってネットが大荒れ。推しの人気が暴落。そのような出来事とファンの感じ方をタイトルにもなっているようフォーカスしています。

 

 

---以下、ネタバレを含みます---

 

 

 しかし、読んでみて主軸に置かれていたのは炎上イベントではなく主人公のダメなところ、普通の生活ができない息苦しさなのではないかと感じます。

学校は休みがちでクラスにも馴染めないで、やっている飲食店のバイトでもヘマが多くマルチタスクになると混乱してしまい、一日一日で消化できる事柄がみんなより少なく、画面の中でキラキラ輝いている推しに自分を見出すことしかできない。

 

 結局、主人公のあかりは高校を二年生で担任から原級留置を言い渡され中退を選ぶこととなってしまいます。担任から「勉強がつらい?」「どうしてできないと思う?」と聞かれてもどこか自分事と捉えられないところが切実でした。

 

 

 本にするためのトピック、イベント性として推しの炎上事件を書いただけで、怠惰な人の生活の行く末の物語なのだと自分は思います。

高校生の主人公をとりまく生活には、「学校生活・勉強」、「アルバイト」、「推し活」があったのだけれど、「学校生活・勉強」は小さいころから苦手で「アルバイト」はしんどくて、縋る先として「推し活」にはたくさんの熱を注げて、それだけが幸せとして存在していました。勉強も努力すればできるようになるでしょ、しなきゃならないんだから、必死になれば頑張れる、という大人の意見が全て正しいとは自分は感じません。努力じゃどうにもならない壁はあると思います。人の頑張るの度量は違います。その人のことを解釈していない意見には対抗し、その人に寄り添いたいと自分は思います。でも、それをできないの言い訳にとってしまって自分の無力を正当化している姿は「推し活」に逃げているように映ります。人間にはさまざまな生活があって、そのなかでより現実に近い類の生活をしっかり成り立たせないといけません。生活の基盤が整っていない状態での快楽や偶像を追う生活は「逃げ」になってしまうのだなと感じました。

 自分たちにもとりまいている生活にはさまざまあり、自分であれば快楽へ向かう生活として「SNS」「バンド発掘」があります。快楽へ向かう生活と言い切って表現したけれど、辛い時にはそれが支えになるし原動力になっているので決して切り離すことのできないものです。だから快楽だと割り切れなくて生活の一部なのだけれど他と比べるとあえて快楽へ向かう生活と認めなくてはいけないのでそうします。それらの生活が、生活の基盤があって直立しているわけではないのなら、虫歯菌が歯をじわじわ溶かしていくのと同じように快楽が現実を揺らしてしまい自分の人生を無力で情けなくしてしまうのだと思いました。

 

 この物語のラストは非常に良かったです。それまでの物語を、人生を一つ一つまとめ上げていて自分と主人公の堕落していた脳に直接一滴の水を垂らしているようでした。自分のもつ生活のそれぞれすべてを一つ一つ丁寧に、生活の基盤を整えていくことが大事なのだと自覚させてくれました。それは長く険しい道のりで、なにか一つが済んでもミッションは連日連夜足されていくけれど、一つ一つを解決していくのが全てひっくるめての自分の生活なのだと感じました。

生活の中でも現実に近いものを直視しないといけない、それじゃないと何も解決しないという気持ちになりました。

 

 一人の人間が一人のアイドルを解釈しようとしている構図はまさに純文学らしいと思いました。深い思考や言い回しから逃げ出さずにまた短編であれば読んで嚙み砕きたいです。

 

ちこり